企画No.87
上映期日 2000.9.2〜29 メイン

人  狼

1999年 日本 カラー ヴィスタトサイズ DTS(1時間38分)
配給 バンダイビジュアル メディアボックス
監督 沖浦啓之
原作・脚本 押井守
音楽 溝口肇
作画監督 西尾鉄也
美術監督 小倉宏昌
CAST 伏一貴: 藤木義勝
雨宮圭: 武藤寿美
ナレーション: 坂口芳貞

 1987年シネ・ウインドは、押井守監督を招き、「紅い眼鏡」ロードショウを行った。当時プロモーション用に、実際の映画の撮影で使用された装甲服が送られてきて、街宣行進を行ったことを今でも覚えている――その装甲服は"プロテクト・ギア"と呼ばれ、ここから"ケルベロス(地獄の番犬)"伝説は始まった。「紅い眼鏡」「ケルベロス 地獄の番犬」漫画「犬狼伝説」を経て、14年後の今年、映画「人狼―JIN-ROH」が公開されることになった。そして、この「人狼」で押井守の原作・脚本を監督したのは、「紅い眼鏡」当時まだ20才だった沖浦啓之だ。

 私事で恐縮だが、沖浦監督と同世代の私が高校時代から熱狂したのが押井守の世界だった。「うる星やつら」シリーズ、「天使のたまご」、漫画「とどのつまり」、そして「紅い眼鏡」。夢と現実を主たるテーマとしていたこれらの作品群。その後、社会人になるのと同調するかの様に、より現実世界のシステムに迫っていった「パトレイバー」シリーズ、そして「攻殻機動隊」。私の興奮は変わらなかった。沖浦啓之が押井守とコンビを組む様になったのは「パトレイバー2」からである。沖浦監督が私と同じ様なシンパシーを押井守に抱いているかどうかは定かではない。ただ、私が、押井守が学生運動の真直中にいた70年代に憧れるのと同じ様な気持ちが、沖浦監督にはあるのではないか。だからこそ彼は、その熱き時代の当事者である押井守と組み、その出発点ともいえる60年代(高度経済成長の始まり。安保闘争。等)をこの「人狼」の舞台にしたのであろう。

 そう、この映画で描かれている風景は、もはや忘れ去られようとしている昭和30年代のそれである。路面電車が走る銀座の街並み、バルーンが上がるデパートの屋上、そこで語り合う恋人たち、等々。この誰にでも懐かしい馴染みの風景の中を、"首都警"と呼ばれる架空の組織を巡る、戦闘、権力闘争、謀略・・・。あるいは"プロテクト・ギア"という想像の産物と、火炎瓶を投げるデモ隊との市街戦。―――こうした非現実的なシーンが、押井守による緻密な脚本と、沖浦啓之が采配をふるう精巧な作画により、可能性としてのもう一つの戦後史であるかの如く展開される。この世界観は、間違いなく、"ケルベロス"シリーズあるいは「パトレイバー」シリーズに通じる押井守のそれである。

 この映画「人狼」では、押井フィールドを踏襲したストーリー展開だけではなく、そこに描かれる人間ドラマにも注目したい。全く異なる世界に住む男と女が出会い、恋に落ち、宿命に立ち向かおうとする。この恋愛ドラマの定石が、ここではアニメーションならではの手法で、実写以上のリアルさで描かれている。例えば、風になびく髪を掻きあげるその柔らかさ、添えられた手を握り返すその熱さ。こうした小さなディティールを丹念に描き、積み重ねることによって、寡黙な主人公とヒロインの秘められた熱い想いが、観る者にドラマティックに伝わってくるのだ。この演出力によっても沖浦監督を評価する。


 主人公伏一貴は、如何なる主人を求め、組織に、宿命に抗い、咆哮するのか。

 また、伏に「赤ずきん」伝説を語るヒロイン、雨宮圭。彼女が語る赤ずきんとは、狼とは、そして母とは一体・・・。

 あるいは、赤いスカーフを被った圭、彼女は「紅い眼鏡」の"紅い少女"ではないのか。とすると、運命の女=ファム・ファタール、圭が伏を誘うところは・・・。

 路面電車が走るノスタルジックな、昭和30年代の東京と共に、物語は驚くべき終末へと突き進んでいく――。

 音楽には、作曲家及びチェリストとして、ワルシャワフィル、チェコフィル等世界的なオーケストラとセッションをこなす、溝口肇が起用されている。

(破嵐万丈)


〜 月刊ウインド2000年9月号より転載 〜

押井 守

 1951年、東京都生まれ。演出家。主な劇場用作品として「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(84)、「機動警察パトレイバー劇場版」(89)、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95)等。その活動はアニメに限らず、実写映画、小説、漫画原作、ゲーム原作と幅広い。

沖浦 啓之

 1966年、大阪府生まれ。アニメーター。手がけた主な作品は「AKIRA」(88)、「走れメロス」(92)、「機動警察パトレイバー2 the Movie」(93)、「MEMORIES」(95)等。「攻殻機動隊」ではキャラクターデザイン・作画監督を担当と、近年の押井作品には欠かすことの出来ない存在となる。


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