新潟編.PDF


「安吾の会」で選んだ、新潟市を舞台とする
作品の<みどころ>ポイント紹介

*株式会社筑摩書房「ちくま文庫」【坂口安吾全集全18巻】をテキストとし、作品名と紹介文を掲載。
ただし、初出誌については、安吾の会発行の「安吾探索ノート」第3号、第5号から抜粋しました。



ふるさとに寄する賛歌
傲慢な眼
おみな
流浪の追憶
母を殺した少年
新潟の酒
気候と郷愁
吹雪物語
青春論
二十一
地方文化の確立について
石の思い
続堕落論
風と光と二十の私と
わがだらしなき戦記
戯作者文学論
反スタイルの記
わが戦争に対処せる工夫の数々
てのひら自伝
教祖の文学
スポーツ・文学・政治
兆青流開祖
秋田犬訪問記
高麗神社の笛
世界新記録病
神薬の話
木炭の発明
冷水浴
砂丘の幻
ヒノエウマの話
青い絨毯
諦めている子供たち
世に出るまで
焼夷弾ふりしきる頃


ふるさとに寄する讃歌
 ちくま文庫 坂口安吾全集1
 初出誌:「青い馬」
 発行年月:S6.5
雪国の陰鬱な軒に、あまり明るい空が、無気力や、辛抱
強さや、ものうさを、強調した。鉛色の雪空が、街のど
の片隅にも潜んでいた。 戻る
傲慢な眼	
 ちくま文庫 坂口安吾全集
 初出誌:「都新聞」
 発行年月:S8.1/8〜1/9	
一面に松とポプラと繁茂した林であったが、その木暗い
片隅に三脚を据えて、画布に向っている傲岸な眼を発見
した。傲岸な眼は六尺に近い大男であったのに、破れた
小倉のズボンや、汚い学帽によって、まだ中学生の若さ
であることが分った。 戻る
おみな
 ちくま文庫 坂口安吾全集1
 初出誌:「作品」
 発行年月:S10.12	
九つくらいの小さい小学生のころであったが、突然私は
出刃包丁をふりあげて、家族のうち誰か一人殺すつもり
で追いまわしていた。原因はもう忘れてしまった。勿論、
追いまわしながら泣いていたよ。せつなかったんだ。兄
弟は算を乱して逃げ散ったが、「あの女」だけが逃げな
かった。 戻る
流浪の追憶
 ちくま文庫 坂口安吾全集14	
 初出誌:「都新聞」
 発行年月:S11.3/17〜3/19	
私のは精神上の放浪から由来する地理上の彷徨だから場
所はどこでもいいのだ。東京の中でもいい。時々一思い
に飛び去りたくなる。突然見知らない土地にいたくなる。
土地が欲しいのではなく、見つめつづけてきた自分が急
に見たくないのだ。 戻る
母を殺した少年
 ちくま文庫 坂口安吾全集2
 初出誌:「作品」
 発行年月:S11.9	
そして卓一の心の奥に、現実の母はまったく死滅し、別
の然しまことの母がひそかに棲んでしまったことに、彼
は冷たい罪悪を意識しながら気附いたのだった。
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西堀通
新潟の酒	
 ちくま文庫 坂口安吾全集14	
 初出誌:「新潟新聞」
 発行年月:S11.12/10(11付)
尾崎士郎氏が月々の酒代に怖れをなして相談をもちかけ
てきたので義兄の紅村村山真雄氏が「越の露」の製造元
であり、かねて知人関係へは一斗十円でわけてくれる例
があったところから、紹介した。これが非常な好評で、
尾崎方で一杯グッとひっかけた輩がわれもわれもと紹介
状を書かせにくる。地酒宣伝の功績甚大なものがあるが、
私のは売元の方が損をしている酒なので自慢にならない。
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気候と郷愁
 ちくま文庫 坂口安吾全集14
 初出誌:「女性の光」
 発行年月:S12.2	
太陽の歓喜を最も激しく知るものは、実は雪国の人々で
あるかも知れない。雪国の郷愁の中にはいつも南国が生
きているのだ。 戻る

どっぺり坂
吹雪物語
 ちくま文庫 坂口安吾全集2
 初出誌:『吹雪物語』竹村書房	
 発行年月:S13	
空に降りみだれる雪は見える。然しながら、その雪が次
第に空間の下方へ降りて、地平線の高さへはいると、言
うまでもないことではあるが、平野の雪にくらまされて、
突然視界から没してしまう。それは当然なことではある
が、雪の行方をみつめていると、地平線へ没するたびに、
広茫たる虚しい思いに心をなでられる思いがする。
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青春論
 ちくま文庫 坂口安吾全集14	
 初出誌:「文学界」	
 発行年月:S17.11〜12	
すくなくとも、僕は人の役に多少でも立ちたいために、
小説を書いている。けれども、それは、心に病ある人の
催眠薬としてだけだ。心に病なき人にとっては、ただ毒
薬であるにすぎない。 戻る
二十一
 ちくま文庫 坂口安吾全集3
 初出誌:「現代文学」
 発行年月:S18.9	
そのころ二十一であった。僕は坊主になるつもりで、睡
眠は一日に四時間ときめ、十時にねて、午前二時には必
ず起きて、ねむたい時は井戸端で水をかぶった。冬でも
かぶり、忽ち発熱三十九度、馬鹿らしい話だが、大マジ
メで、ネジ鉢巻甲斐甲斐しく、熱にうなり、パーリ語の
三帰文というものを唱え、読書に先立って先ず精神統一
をはかるという次第である。 戻る
地方文化の確立について
 ちくま文庫 坂口安吾全集14
 初出誌:「月刊にひがた」
 発行年月:S21.2	
新しい日本を育てる力は文化だけだ。文化のみが発育の
母胎であることは古今に変りがないのだが、今日の日本
の如く、文化がその全威力を許されたということは、日
本の歴史では先例がない。このとき我々が文化への正当
な認識と教養を怠るなら、我々はせっかくの光明を自ら
吹き消して暗中へ退歩する愚を犯すこととなるのみであ
ろう。 戻る
石の思い	
 ちくま文庫 坂口安吾全集4
 初出誌:「光」
 発行年月:S21.11
私は「家」に怖れと憎しみを感じ、海と空と風の中にふ
るさとと愛を感じていた。それは然し、同時に同じ物の
表と裏でもあり、私は憎み怖れる母に最もふるさとと愛
を感じており、海と空と風の中にふるさとの母をよんで
いた。 戻る
続堕落論
 ちくま文庫 坂口安吾全集14	
 初出誌:*「堕落論」の改題 「文学季刊」
 発行年月:S21.12	
人間の、又人性の正しい姿とは何ぞや。欲するところを
素直に欲し、厭な物を厭だと言う、要はただそれだけの
ことだ。好きなものを好きだという、好きな女を好きだ
という、大義名分だの、不義は御法度だの、義理人情と
いうニセの着物をぬぎさり、赤裸々な心になろう、この
赤裸々な姿を突きとめ見つめることが先ず人間の復活の
第一の条件だ。そこから自分と、そして人性の、真実の
誕生と、その発足が始められる。 戻る

大神宮鳥居
風と光と二十の私と
 ちくま文庫 坂口安吾全集4	
 初出誌:「文芸」
 発行年月:S22.1		
まだ足りない。何もかも、すべてを捨てよう。そうした
ら、どうにかなるのではないか。私は気違いじみたヤケ
クソの気持で、捨てる、捨てる、捨てる、何でも構わず、
ただひたすらに捨てることを急ごうとしている自分を見
つめていた。自殺が生きたい手段の一つであると同時に、
捨てるというヤケクソの志向が実は青春の跫音のひとつ
にすぎないことを、やっぱり感じつづけていた。
 戻る
わがだらしなき戦記
 ちくま文庫 坂口安吾全集4
 初出誌:*「ぐうたら戦記」の改題 「文化展望」
 発行年月:S22.1
こういう私にとっては生れつき兵隊ほど嫌いなものはな
かったが、然し、私は凡そ戦争を呪っていなかった。元
々芸術の仕事というものは、それ自体が戦争に似ている。
個人の精神内部に於ける戦争の如きもので、エマヌエル
・カント先生も純粋理性批判に於いてそういう表現を用
いているが、ともかく芸術の世界は自らの内部に於て常
に戦い、そして、戦う以上に、むしろ殉ずる世界である。
 戻る
戯作者文学論	
 ちくま文庫 坂口安吾全集15	
 初出誌:「近代文学」
 発行年月:S22.1	
佐々木基一君より来信、「白痴」に就ての感想を語って
くれたもの、私が日記をつけてみようと思ったのは、こ
の佐々木君の手紙のせいだ。佐々木君は「白痴」で作者
の意図したことを想像しているのだが、実のところは、
作者たる私に「白痴」の意図が何であったか分っていな
い。書いてしまうと、作品の意図など忘れてしまう。
 戻る
反スタイルの記
 ちくま文庫 坂口安吾全集15	
 初出誌:「東京新聞」
 発行年月:S22.2/6・2/7
私がヒロポンという薬の名をきいたのは六七年前で、東
京新聞のY君がきかせてくれたのである。そのときは二
日酔いの薬というY君式の伝授で、社の猛者連中が宿酔
に用いて霊顕あらたか、という効能がついていた。
 戻る

大神宮
わが戦争に対処せる工夫の数々
 ちくま文庫 坂口安吾全集5
 初出誌:「文学季刊」	
 発行年月:S22.4
私は戦争を「見物」したかったのだ。死んで馬鹿者と云
われても良かったので、それは私の最後のゼイタクで、
いのちの危険を代償に世紀の壮観を見物させて貰うつも
りだった。 戻る
てのひら自伝-わが略歴-	
 ちくま文庫 坂口安吾全集15	
 初出誌:「文芸往来」	
 発行年月:S22.5
人間は生れた時から人のふったサイコロで出てきた天来
のかけの子供なのだから、我々の文化が自由意志などと
大声シッタしてみても砂上楼閣、化けの皮がはげ、知識
のあげくは不自由へかけ戻る。 戻る
教祖の文学−小林秀雄論−	
 ちくま文庫 坂口安吾全集15	
 初出誌:「新潮」
 発行年月:S22.6	
小林秀雄という落下する物体は、その孤独という詩魂に
よって、落下を自殺と見、虚無という詩を歌いだすこと
ができるかも知れぬ。 戻る
スポーツ・文学・政治	
ちくま文庫 坂口安吾全集15	
初出誌:*連載 「近代文学」
発行年月:S24.11	
評論家は、ボクの人物や作品の最後の統一点がどこにあ
るか見つけようとして困っているらしい、が、統一はあ
るね。仏教だろうという人もあるが、仏教の東洋的ニヒ
リズムではない、まあ一番近いのはチエホフだろう。
 戻る
落語・教祖列伝
兆青流開祖	
 ちくま文庫 坂口安吾全集7
 初出誌:「オール読物」
 発行年月:S25.11	
それはホラブンの絶え間なしにつぶやいている呪文であ
る。「チョーセイ、チョーセイ、チョーセイ、チョーセ
イ」 戻る
安吾新日本地理 
秋田犬訪問記
 -秋田の巻-
 ちくま文庫 坂口安吾全集18	
 初出誌:「文芸春秋」
発行年月:S26.11		
私の生れた新潟市と秋田市はよく似ている。まったく同
じものは裏町である。裏町の中流の庶民住宅である。
(中略)そして傾いた屋根の下に、長い一冬の雪の下に、
アキラメと楽天との区別のつかないアイノコが人々の心
にしみつき、育って行くのである。 戻る
安吾新日本地理
高麗神社の祭の笛
-武蔵野の巻−	
 ちくま文庫 坂口安吾全集18	
 初出誌:「文芸春秋」
 発行年月:S26.12	
ともかく扶余族の発祥地はハッキリしないが満洲から朝
鮮へと南下して、高句麗、百済の二国をおこしたもので、
大陸を移動してきた民族であることは確かなようです。
 戻る
安吾巷談
世界新記録病	
 ちくま文庫 坂口安吾全集17
 初出誌:*連載 「オール読物」
 発行年月:S27.1〜7		
私は応援団というものがキライである。応援団もユーモ
アを解し、美を解することを心得ていればよろしいけれ
ども、たとえば対抗野球の応援団などというものは、殺
伐で、好戦的なもでのである。 戻る
明日は天気になれ
神薬の話	
 ちくま文庫 坂口安吾全集18	
 初出誌:*連載 「西日本新聞夕刊」	
 発行年月:S28.1/2〜4/13		
これぞ文明の神器と私は大そう感激して、DDT、ペニ
シリン、オーレオマイシン、クロロマイセチン、テラマ
イシンという神族をわが家へ勧請し、一タン緩急にそな
えて崇敬をはらっている。 戻る
明日は天気になれ
木炭の発明
 ちくま文庫 坂口安吾全集18	
 初出誌:*連載 「西日本新聞夕刊」
 発行年月:S28.1/2〜4/13		
私の育った越後も寒かった。あすこにはコタツというも
のがあるが、背中が寒いから、まんまるくなってコタツ
に当っている。ノビノビと健全なる暖房じゃない。
 戻る
明日は天気になれ
冷水浴	
 ちくま文庫 坂口安吾全集18	
 初出誌:*連載 「西日本新聞夕刊」
 発行年月:S28.1/2〜4/13	
そういう次第で冷水浴記録は十二月六日までであるが、
この不覚は今でもシャクの種で、不幸にして再び戦争が
あるときはせめてこの記録を破ってやろうと考えている。
 戻る
砂丘の幻		
 ちくま文庫 坂口安吾全集9
 初出誌:「小説新潮」
 発行年月:S28.11	
生来日本趣味の、根が風流な少年で、六花会という命名
も彼の智恵である。新潟市は雪を紋章とする。雪の結晶
は六角で、六花とも称するが、人数にちなんで市の紋章
の六花を借用した次第で、バカの集りにしてはよくでき
た会名だ。カルタの技芸を持ちこんだのも万吉であった。
 戻る
ヒノエウマの話	
 ちくま文庫 坂口安吾全集16	
 初出誌:「新潟日報」
 発行年月:S29.1/3	
私の生まれた新潟では寸をつめて名前をよぶ癖があって、
ヘイゴをヘゴとよぶ。敬称のサンを略して「ヘゴサ」と
よぶのである。音がよくない。いかにも臭そうだ。それ
に新潟では弱虫をヘゴタレと呼ぶから益々よくない。
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青い絨毯		 ちくま文庫 坂口安吾全集10	
 初出誌:「中央公論」
 発行年月:S30.2	
芥川の家は僕の知る文士の家ではましな住家だけれども、
中流以上の家ではない。和風の小ざっぱりとした家で、
とりわけ金をかけたと思われる部分もなく、特に凝った
作りもない。(中略)日当りの良い家だけれども、なぜ
か陰気で、死の家とはこんなものかと考え、青年客気の
あのころですら、暗さを思うと、足のすすまぬ思いがし
たものである。 戻る
諦めている子供たち
 ちくま文庫 坂口安吾全集16
 初出誌:「暮しの手帖」
 発行年月:S30.2		
ここに方言を書いただけではとうてい皆さんにお分りに
ならないことが一ツあるが、新潟の方言にはまるで唄う
ような抑揚があって、是が非でも納得させたいと哀願し
ているような哀れさと同時に自分自身を小バカにし卑屈
にしてもてあそんでいるような諦めとユーモアがある。
 戻る
世に出るまで	
 ちくま文庫 坂口安吾全集16	
 初出誌:「小説新潮」
 発行年月:S30.4	
少年時代の私は、学校というところはスポーツを習うと
ころで、学問の勉強なぞは自分の縄張りではないときめ
こんでいた。そこで授業時間は全部といっていいほど休
んで、天気のよい日は海辺で、雨の日は学校の隣りのパ
ン屋でねころんでいた。 戻る
焼夷弾ふりしきる頃
 ちくま文庫 坂口安吾全集10	
 初出誌:*初出誌未詳		
バクダンに比べると焼夷弾は女性的で、ガラガラという
丁度ガードの下で電車の音をきくような大きな落下音を
伴うけれども、最後の爆音がないのだから、さほど凄味
を感じない。バクダンの落下音はザアーという雨のよう
な音を引き、この音には充実した凄味があって、毒のあ
る蛇とない蛇ぐらいの違いがあるということを壕の中で
感じていた。 戻る



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